『白い冬』は「ふきのとう」が、作曲・演奏・歌唱した、デビューシングル(ウィキペディア)とのことです
私はこのグループ?がどんな人達かは知りませんでしたが、この作品が昭和の名曲だということは、【黄金バット】同様、「こうもりだけが知っている」…わけではなく、多くの方がご存じだと思います
どこ どこ どこからくるのか 黄金バット (作詞:第一動画文芸部)
「ふきのとう」の『白い冬』は、四十数年前にあるスナックの片隅からやってきたのです
(ハッハッハッハッハッハッ…)
白い冬 1974年(昭和49年)
作詞:工藤忠幸 作曲:山木康世 編曲:瀬尾一三
編曲「瀬尾一三」さんといえば、『オリビアを聴きながら』や『いちご白書をもう一度』で一躍有名となり、「チャゲアス」の初期作品もほとんど手がけられていました
私は『22才の別れ』のギターアレンジが忘れられません
そんな彼の作品です、イントロから気が抜けません
特に歌の始まり直前のギターの音に注目です
一人で想う 秋はもう深く
過ぎ去れば むなしく消えた日々
さくらの花も散り、新緑の季節真っ最中に、私はなぜこの歌を今聴いているのでしょう
”春とおもえば ~夏が来て~夏とおもえば 秋が来て~所詮…最後は 寒い冬”(作詞:石坂まさを)
名曲『冬の花』で「鮎川いずみ」さんも歌っておられたように、季節の移(うつ)ろいは年々早く感じられるこの頃なので、季節感さえ移ろっているのかもしれません
そして、泳ぎが苦手な私は夏を飛び越え、大好きな秋を今から肌に感じて、”むなしく消えた日々”を、この歌と共に探しているのです(色恋なしの、文字通りにむなしい日々を…)
あなたに逢えた 秋はもう遠く
迎えつつあるは 悲しい白い冬
抒情的な旋律に短い詩的な歌詞がしっとりと心にしみわたります
「悲しい白色」と「細坪基佳」さんの澄み切った声が綺麗に重なって、辛い思い出を包み込んでいるようです
もう忘れた 全てあなたの事は
秋の枯葉の 中に捨てた
作詞者「工藤忠幸」さんんはこの歌詞に全てをかけたのかもしれません
「ふきのとう」のこれからをこの最後の2行の言葉に託します
作曲「山木康世」さんは感動の旋律をもって答え、この昭和の名曲は私たちの前に生まれてきてくれました
この歌には2番がありません
正しくは2番の新たな歌詞はなく、1番のリピートとなっています
このような構成の歌を私は他に知りません
研ぎ澄まされた比喩(ひゆ)や一つ一つの鮮やかな情景に、多くの言葉はいらないのです
全てをそぎ落とした歌詞と旋律に、彼ら二人の生きざまを予感させてくれるこの『白い冬』
偉大なる昭和という枯葉の中に、決してうずもれさせてはならないのでした。
P.S.
罪の意識と感謝
この歌を紹介してくれたのは、当時よく通っていたスナックの、薄暗いカンターに腰掛け、静かに歌う中年の男性からでした
その隣に座っていたのは、偶然にも会社の同僚、誰もが憧れていた?かどうかは定かではありませんが、ちょっとしたカリスマOLだったのです
その名は久山女史(仮名)、人呼んで「ひっしゃん」(仮・通称名)
伝説となったこの女性(発注係)は、その後いくつもの不良在庫を積み重ね、数々の優良取引先を重機のごとくなぎ倒していくのでした
おめかしした「よっしゃん」とよくお似合いなその彼が歌う『白い冬』
今でも後ろ姿しか知らない彼はとてもうまく、着古したポロシャツとカラオケモニターに熱い視線を送っていました
素敵な歌を教えてくださった彼に、今でも大変感謝しています
この歌を聴くたびに、部長と共に新幹線を乗り継ぎ、当時家庭用ソーラーパネル大手の「Aソーラー」本社を、泣く泣く訪れた同僚の話が、懐かしく思い出されます
我らが会社は、バブル期にかなり儲けたとはいえ、商品を右から左へとまわして稼ぐ、しがない中小企業です
そして「Aソーラー」との取引は、メーカー直送で伝票処理だけで完結するいわゆる「かなりおいしいお客様」でした
その莫大な売り上げ(多いときは1000万/月ぐらいあったらしい)が、「ひっしゃん」の度重なる発注ミスで、すべてが無くなろうとしていました
いつものんきな常務も、担当者と一緒にはるか九州(大分県)まで飛んでいく次第となったのです
二人の努力にもかかわらず、結局取引停止となります
ここからがあの会社のいいところ?です
毎朝当たり前のように、恐ろしいほどの怒号が各部署から飛び交います(部署と言っても、朝礼部屋を長椅子ごとに分けただけです)(今日は誰が絞られているか、見たくなくても目と耳に入ります)
そんな恐怖のミーティング(引き合い・受注状況を訪問リスト等で細かく詰められる)は、いつも白熱し、叱り疲れた頃にやっと終わりを迎えます
前日に無理やり連れていかれ、飲み明かした後の土曜の朝練(野球)は、また格別です
(6:00きっちり集合の遅刻厳禁です)(何故か会社から結構離れており、夏休みの小学生より早起きします)
8:30分には会社へ帰り、前日の酒と汗のにおいを織り交ぜながら、ハードな営業活動へと旅立つのが、春から秋ごろまでの風物詩でした
話は大分県へ戻ります
常務は傷心した気持ちを吹っ切り、せっかくだからと「地獄めぐり」を満喫し、帰りの新幹線の中では缶ビールでの残念会です(この常務、社長の弟さんで出世欲も過去もきれいに捨て去るタイプです)
日帰りしたその日、退社時間がくると二人は夜の街に繰り出し、名ばかりの残念会パート2が延々と夜更けまで続いたようです
「よっしゃん」の武勇伝で盛り上がったことは言うまでもなく、『明日があるさ』を仲良く歌ったものと思われます
そんなささやかなアメと強烈なムチが混在した懐かしき会社なのです
(内容はフィクションが多く含まれ、事実に基づいているものではありません)
「よっしゃん」の名付け親でもあるこの同僚の彼、最近再び交友が深まり、当時の話をよくしています
もう忘れた 全てあなたの事は
秋の枯葉の 中に捨てた
「ひっしゃん」への微妙な想いは、彼ら二人もとうの昔に捨てたことでしょう
当時は手書き伝票とパソコン導入が入り混じりっていたせいか、私も多くの不良在庫を闇から闇へと葬り去っていました
「棚卸」前には、倉庫の隅に隠した大物小物(自分たち営業マンが適当に注文した返品不可能なあまたの商品群)をせっせと車に積んで、自宅の倉庫へ瞬間移動させるのでした
同じようなことをする人も多くいたはずですが、会社はそんな私たちをおおらかに見守ってくださいました(例のミーティングでお叱りを受けることもありましたが…)
彼女のことを責める資格など微塵(みじん)もないのです
”秋の枯葉の中に捨てた”のは、会社への「パワハラに対する不満」と「罪悪感」の両方だったのかもしれません。
多くのことをやらかし、多くのことを教えられたこの会社に、感謝しかありません
ご迷惑ばかりおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。
了
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