「太田裕美」さんのデビュー曲が『雨だれ』だと知らされ、やはり彼女の原点にして素晴らしい曲なので、今回はこれにしよう
デビューより13曲連続で作詞は「松本隆」さん、作曲もほとんどが「筒美京平」さん、もう名曲しか残りません
そう心に決めたのもつかぬ間、何度か聴いていると『青空の翳(かげ)り』という曲が急浮上しました
聴いてみると、バラード調のまさに隠れた名曲という感じです
何と言っても、作詞者が今までの流れを破っての「来生えつこ」さん、やっぱりこちらにしよう(あまり有名じゃなさそうだし…)
・・・しかし私は聞いてはいけない曲を再び聴いてしまったのでした
メジャー曲(微妙ですが)は何となく避けていたのですが『君と歩いた青春』です
この曲への思い入れが、今までの構想を、いとも簡単に根底からひっくり返してしまったのでした
君と歩いた青春 昭和56年(1981年)
作詞・作曲:伊勢正三 編曲:萩田光雄
「風」のオリジナルですが、当時聞いた覚えがあるのは「太田裕美」さんです
彼女はどうして男歌を歌っても、こんなにもピッタリとはまるのでしょう
「萩田光雄」さんの編曲は、イントロから一気に郷愁を高めてくれます
君が どうしても 帰ると 言うのなら もう止めはしないけど
若い二人に何があったのかは分かりませんが、「君」はひとり田舎へと帰っていきます
いつもグループで行動していた彼らたちでした
ある日一人の女性が加わり、やがてこの二人だけが都会で暮らし始めたのですが・・・
彼女が去った部屋に一人取り残された「ぼく」の回想が始まるのでした
「後悔」とはいえないまでも、どうしようもない「心残り感」を、昔の思い出や郷愁を織り交ぜて、「伊勢正三」さんは昭和史に残る傑作を私たちに魅せてくれます
1番では「~なはずだから」とか「~してみたら」と結構気にかけます(正直、いらぬお世話かなと思ったりもしました)
普通の女性なら、「今さら何?、ほっといて!」って思いそうですが、何となくこの彼女は、素直に受け入れている、そんな情景が浮かびます
でも私は、2番以降の歌詞から徐々に彼のほうへと前のめりになっていきます
けんか早い やつもいた 涙もろいやつも いた
みんな君のことが すきだったん だよ
”みんないいやつばかりさ ぼくとは ちがうさ”と1番の最後にポツリと呟いています
決して自分勝手な、ただのモテ男なんかじゃなく、彼女を含め仲間のことが大好きなのです
本当は あいつらと 約束したんだ 抜けがけは しないとね
たとえば男5人いたら、下から2番目ぐらいにモテない私は、ちょっと許せない思いが正直あります
でも現実とはこういうものと、冷静に受け止めることが出来始めたのはいつごろからでしょうか
それは自分の自信のなさ、不甲斐(ふがい)なさを隠すための言い訳だったことに気づかないままに・・・
○○当たりさ ぼくは だけど ほんとさ 愛して いたんだ
このあたりから、主人公の一生懸命な生き方が伝わって来はじめるのです
「太田裕美」さんシングルバージョン(再レコーディング)では、「○○当たりさぼくは…」のところをかなり強調されておられます
逆に、アルバム『12ページの詩集』(1976年)では気持ちをぐっと抑え、切々と語るように歌われ、とても気に入っています
この男の人の優しさが、「太田裕美」さんの声の優しさにぴったりと重なります
何で男歌が似合うのかとの疑問が、このアルバムバージョンを聴いていて少し分かった気がするのです
彼女の稀有(けう)な声は、どこまでも心地よく誰もが癒(いや)されることでしょう
デビューされて早45~6年が過ぎようとしていますが、いまだに彼女に匹敵するような声は、私には届いていません
「太田裕美」さんと同じ時代を歩けたことに、心より感謝したいと思います
きれいな 夕焼け雲を 憶えているかい
君と 初めて 出逢ったのは ぼくが一番 最初だったね
この歌詞のところで、遠い昔出逢ったある人がチラッと浮かぶことがあります(青春です)
「若さ」というものが誰しも持っている、「勢いと不安定さ」
このあたりまでくると、主人公のことがどんどん好きになっていく自分がいます
「おまえも辛いんだよなぁ」と声を掛けたくなるのです
君と 歩いた青春が 幕を 閉じた
もう冷静ではいられない自分がいます
「君はじゅうぶん頑張ったんだよ」と肩を叩いてあげたい
君はなぜ 男に生まれて こなかったのか
この言葉が聞きたくて、何度この作品を聴いてきたことでしょう
最後のこのセリフは、充分過ぎるほどの余韻をもって、私の心に残り続けるのです
この彼女はずっと「木綿のハンカチーフ」を持ち続けているような、昭和の女性だったのかもしれません
エンディングが流れる中、いつも私は同じ体験をしています
先ほどまではチラッと浮かんでいただけのあの人が、はっきりと「あの笑顔」を私に向けてくれているのです(幻覚です)(夢・まぼろしさえ、愛しく感じてしまいます)
『君と歩いた青春』
あの人とは一緒に歩くことはできませんでしたが、これからもこの歌を大切に胸に抱き、歩き続けることになるでしょう。
P.S.
「伊勢正三」さんの代表曲言えばやはり『なごり雪』でしょうか(同じ「イルカ」さんの『雨の物語』も大好きな曲の一つです)
そしてこの『なごり雪』には別バージョン? があったのです(伊勢さんもコンサートで歌われていたようです)
「嘉門達夫」さん、『替え歌メドレー』や『あったらこわいセレナーデ』(この曲は、作曲家としても渾身の一撃でしょう)等のオリジナル曲のほか、この歌『なごり寿司』、フルコーラスで替え歌にされています
なごり寿司
作詞:嘉門達夫
寿司を待つ君の横で僕は 値段を気にしてる
季節はずれのブリが 光ってる
嘉門さん、あなたはやはり天才でした
東京で食う寿司は銀座が 最高ねと 刺身盛り食べて君が つぶやく
この後も下心あるオヤジとやり手のおねえさまのバトルは必見?ですので、ぜひ聞いてみてください
君が去った カウンターに残り むらさきにとけた わさび見ていた・・・
この「哀愁」・「なごり感」、原曲『なごり雪』に勝るとも劣りません
こちらも、昭和の名「替え歌フル」として後世に残ることでしょう
「名残惜しい」と「未練」との違いは、気持ちの尾を引く時間の違いらしいです
あるひとときの名残惜しさと、ずっと引きずり続ける未練
「あの人」への想いに、いつまでも未練を残していても前へは進めません
「名残」の語源は「波残り」とも言われています
波が打ち寄せた後に残る素敵な貝殻のように、また新しい人生がきっと待っているはずだから・・・
了
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四畳半フォーク 南こうせつとかぐや姫 三部作 昭和48年 昭和49年
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