『スター誕生!』始まり当初からの審査員です
「阿久悠」さん「松田トシ」(松田敏江)さん、そして「中村泰士」さんの三人のレギュラー審査員は個性も強烈でした
阿久先生はギロリとにらみを利かせ、的確に評論され、トシ先生は発音に厳しく、点数も辛めで愛のムチがさく裂します
いつもにこやかな「中村泰士」先生には、ダンディーなおヒゲと共にとても親しみを感じていたのでした
注:(同じような内容を以前にも書いたような…)
そんな昔のテレビを思い起こしながら、先生の偉大なる作品を少しだけふり返ってみたいと思います
『夜間飛行』 1973年(昭和48年)
大ヒット曲『喝采』からの一撃
1972年から1973年にかけて、『禁じられた恋の島』『喝采』『劇場』『夜間飛行』と作詞者「吉田旺」さんとの名コンビで「ちあきなおみ」さんに4曲続けて作品を提供しています
誰もが認める、不動の名曲『喝采』に続くこの『夜間飛行』
コンビ作品の最後で大作詩家「吉田旺」さんが霞むほどの曲を誕生させていました
最後の最後まで 恋は 私を苦しめた
指を つきぬけ涙が あふれそうよ
この曲の入り方は、誰にも描けない至高の旋律で、誰をも引き寄せる力強さも併(あわ)せ持っています
”いつものように幕が開き…” なんてことはありませんでした
突然・衝撃的に・強烈なインパクトで「第4幕」は開いたのです
そして、予測不能な展開が次から次へと押し寄せてきました
そして 今・・・
ガラリと変わった曲調で、ほんの少しのタメがここで入ります
翼に身をゆだね・・・
正に身をゆだねて、聴いているこちらも揺れ動かされるようです
あぁ ・・・愛されて あぁ ・・・別れた
「あ~」の高音の突き抜け感
目まぐるしい曲の変化の中でも、ここがジェットコースターでいう最上層に位置します
このままずっと どこへもおりず
スピードはぐんぐんと増し、縦横無尽に動き、その勢いは頂点へと達します
二度と帰らないの そして帰らないの
曲の最後に同じ歌詞を続けることはよくありますが、このような手法は私にとってとても新鮮でした
静かに、そっとささやくかのように、まったく同じ旋律が繰り返されます
それはまるで、しっかりと余韻を楽しんでくださいと訴えているかのように・・・
歌謡曲でも演歌でもなく、ただただスケールの大きさを感じる、これが「中村泰士」さんの一つの世界なのかもしれません
愛は傷つきやすく 1970年(昭和45年)
作詞:橋本淳 編曲:森岡賢一郎
この曲のヒットのより、「ヒデとロザンナ」を紅白歌合戦初出場へと導きました
自由にあなたを愛して 愛して 私はこんなに 傷ついた
リズムカルなこのテンポ感は、戦後25年の歌謡史において画期的な作風ではないでしょうか(勝手な思い込みかもしれませんが…)
1位『黒ネコのタンゴ』2位『ドリフのズンドコ節』3位『圭子の夢は夜ひらく』『女のブルース』 『逢わずに愛して』『手紙』『愛は傷つきやすく』(1970年ヒット曲ランキング上位7位)
この時代はまだまだ演歌が強く、歌謡曲黎明(れいめい)期です
そんな中「中村泰士」さんは、時代の一歩も二歩も先を進んでいきます
よみがえる 日々/よみがえる 愛
ロザンナの「日々」にヒデの「よみがえる」をかぶせたこのコーラス部分は、二人の愛の重なりの証なのかもしれません
作曲者はどこまでもどこまでものびやかに、曲を紡いでいくのです
やさしい言葉で なぐさめ つつんでそして 結ばれた
制作者たちは、ご結婚を予期していたかのように、素晴らしい曲・詩・アレンジでお二人を祝福していました
鴎(かもめ)という名の酒場 1980年(昭和55年)
「阿久悠」先生が詩を付けると、曲ががらりと演歌の世界を極めます
「中村泰士」さんが、今まで百数十曲をリリースされている「石川さゆり」さんに楽曲提供されたのはわずかに2曲(もうひとつが『流氷』)しかありませんでした
でも私はこの『鴎という名の酒場』という作品が好きでたまりません(あまり売れなかったのも、余計にいとしさが増します)
黒地に 白く 染めぬいた つばさをひろげた 鴎の絵
22歳の彼女は、出だしから難解な旋律を、憂(うれ)いに満ちた表情で解きほぐしていきます
『津軽海峡冬景色』でブレイクしたばかりのか細さは影を薄め、作詞・作曲家の意図を十分理解して、この歌に魂をぶつけます
特に ”つばさをひろげた” のところは非常に難しく、高度な歌唱力が要求されます
作曲家「中村泰士」さんが、「石川さゆり」さんへの信頼がいかに大きかったが証明された曲でもあるのです
鴎という名の 小さな酒場
荒波が岩をも砕くように音一つ一つに力が加わっているようです
窓を開けたら海 海 海
最後は、波が静かにひいて行くように終わりを告げるのでした
まるで、私たちの心に「寂寥(せきりょう)感」と「満足感」が合わさった心地よさを残したままに・・・
石川さゆり イシカワサユリ / 定番ベスト シングル: : 波止場しぐれ / 鴎という名の酒場 【CD Maxi】
「中村泰士」さんの動画を拝見しました
80歳を過ぎて(?)なお、ロザンナさんと『愛は傷つきやすく』を歌われていることに、驚きと尊敬の念しかございません
「ヒデ」さんへのお二人の愛、そして「ロザンナ」さんへの愛おしそうなほほ笑み
『スター誕生!』の放送から半世紀近くが経ちましたが、「中村泰二」さんの当時のあの笑顔とオーバーラップしてしまいました
こんなカッコイイ「おじいちゃん」
決してまねることなど出来ませんので、「お疲れさまでした」とせめて感謝の言葉を心から申し上げたいと思うばかりです。
P.S.
2020年の終りに
年末の大掃除に始まり、30日の餅つき、大みそかのレコード大賞そして紅白歌合戦
そんな年の瀬の高揚感を感じなくなって、もうずいぶんと月日が経ちます
今年も何となくお正月を迎えるのでしょうが、毎年感じるのは、悲しい知らせの数々
「梓みちよ」さん「弘田三枝子」さん「渡哲也」さん「岸部シロー」さん「筒美京平」さん「中村泰二」さん「なかにし礼」さん
音楽関係者だけでもこんなにも多くの方々が…
昭和の全盛期を、素敵な音楽で支えてくださったことに心から感謝いたします
そして、謹んでお悔やみ申し上げます。 令和2年12月末日
了
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